医師が持つ2つの役割とは
2つの医師という職業について
医師という職業は大きく2つに大別することができます。その2つとは、表で患者さまを支えている「臨床医」と、裏で医学の未来を支えている「研究医」です。2者それぞれが医療業界において大切な役割を担っています。
医師の中には、臨床現場で多くの患者さまと接することでモチベーションを保ち、やりがいを求める方もいるでしょう。また、大学の医学部、理学部、薬学部などを卒業し、大学院へと進んで経験を積みながら研究医を目指す方や、大学院での基礎研究をきっかけに大学の教授の地位に就く方もいます。医師といっても、進む方向や活躍する場所によってさまざまな分野の医師業が存在しているのです。
人によっては途中で進む道を変える場合もあります。たとえば、整形外科の臨床医として日々多くのリウマチ患者を診察していた経歴を持つ医師が、重度のリウマチ患者と出会って「根本から治療できる方法を研究したい」という思いが募り、研究医への道へと向きを変えた、というケース。これは、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥京都大学教授の実際にあったお話です。山中教授が率いる研究グループによって、2006年に発見された「iPS細胞(人口多能性幹細胞)」の報告は世界中に衝撃を与えました。この世紀の発見を経て、新たな医療方法の臨床研究が期待されています。
「臨床医」のお仕事とは?
臨床医は、患者さまの個々の症状に対し、診察・治療・投薬・手術を行うほか、相談対応や生活指導などの仕事を行います。また、患者さまのカルテや会議に必要な資料、論文などの作成、また事務的処理も立派な臨床医のお仕事です。さらに、業務を行う中で、他の医師や看護師、薬剤師、医療事務スタッフなどとも関わることが多々あります。治療が円滑に進むように、それぞれのスタッフとの連携を取り合うためのコミュニケーションも大切な業務の一つです。
勤務先の施設形態によりますが、急患や休日の対応を受け入れているところも多いため、体力的また精神的な強さを求められることもあるでしょう。しかし、日々患者さまと接することで感謝される場面が多々あり、やりがいを感じる瞬間も豊富です。また、多くの患者さまとの出会いは症例の数に比例し、複数の治療法の発見が期待できます。そんな人の命に大きく関わる仕事を担っているのが臨床医です。
「研究医」のお仕事とは?
研究医は、まだこの世で治療法が確立されていない病気の原因を解明する仕事を担っています。患者さまを直接診察することはほとんどありませんが、不治の病と戦うべく、基礎的な研究や感染症発生のメカニズム、人体の構造など、原因解明に向けて日々取り組むのが研究医の主なお仕事です。研究の仕事は、地道に幾度も実験を繰り返し、成果や良い結果が出てもなお実験を続けるという気の長い作業の連続です。実験の結果をデータに起こす作業や他のチームの研究データを収集する作業も行います。また、研究業務とは別に、学生への講義や学会への参加、専門誌・学術誌への投稿といった業務も行われています。
研究医になるためには、2年間の臨床医経験が必須条件。医師としての高い知識と現場経験が求められる仕事でもあります。たった一つの発見で多くの人の命を救うのが研究医の使命です。
臨床医、研究医の主な勤務場所
臨床医の主な勤務先は、大学病院や総合病院、一般病院、診療所(クリニック)などの医療施設などです。このような場所で働く臨床医を「勤務医」を言います。また、企業に常駐して従業員の健康管理を担当する「産業医」も臨床医です。危険を伴う作業を行う職場には産業医を常駐させることが法律で義務付けられています。
研究医の主な勤務先として挙げられるのは、大学や病院、製薬会社などの各種研究機関です。研究医として活動するためには、2年間の臨床医経験が必須条件とされています。そのため、すぐに研究医として職に就けるわけではなく、医療施設で臨床研修医として勤めることが必要です。2年の現場経験と高い知識を得たあとは、多くの人の命を救う研究医として各勤務先で活躍します。
臨床医、研究医の給料
医師としての収入は担当分野によって大きく異なるものです。
たとえば、内科医や外科医、小児科医、精神科医といった分野で活躍する臨床医はほぼ1,000万円を超える収入が期待できます。その中でも医師の3分の1を占めると言われている内科医の平均年収は約1,200~1,500万円ほど。高度な技術を要する外科医師は年収が高いイメージが付きものですが、平均年収は約1,100万円ほどと内科医の平均額に比べて低めです。全体の平均なので、勤務医または開業医といった働き方や、年齢、勤務先の病院の規模などによって人それぞれ異なるでしょう。また、都会や地方といった住む地域によっても収入の差に違いが出てきます。都会は医師の数が多く、その逆に地方は医師の数が不足しているため、地域による収入額では約800万円ほどの差があるのが現状です。
また、厚生労働省の調べによると、勤務医よりも開業医のほうが約1.7倍の収支の差が見られます。しかし、個人で開業している場合には、診療所の建築・建替え・修繕などの費用や、病気・ケガで休業したときのための所得補償費用、老後の積立などが給与として含まれているケースもあるため、開業医のほうが収入が高いとは一概には言えないでしょう。
※参照URL:厚生労働省 – 「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」について
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken12/iryouhoushu.html
臨床医は、大学や研究所から給与が支給されますが、生活していけるだけの収入しか期待できないと言われています。そもそも就職先のポストが少ないのが低給与の原因です。しかし、論文や実績が学会に認められ、講演会や書籍の出版などによって医師業とは別の収入を得るチャンスもあるでしょう。
ですが、やはり安定した生活を第一条件に挙げる人は、しっかりと収入を得られる臨床医が適職かもしれません。
「臨床医」「研究医」を目指すには
医師になるためには、まず大学の医学部で6年間の教育を受ける必要があります。その後、医師の国家試験を受けて合格すると、さらに臨床研修医として2年の月日をかけて経験を積まなければなりません。
しかし、医学部自体、誰でも入れるほど大学の門は広くなく、難関とされています。また、国家資格を取得するのも狭き門です。もし、試験問題の中で、医師がやってはいけないとされている禁忌肢問題を4問以上ミスしてしまった場合には、その時点で不合格となるほど険しい道です。そんな長い道のりを突き進み、2年間の臨床研修を経てはじめて医師として活躍することができます。
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